ドイツ・ミュンヘン在住のジャーナリスト、ベンジャミン・ハーゲドーン先生とZOOMで結び、「ドイツ社会が直面する時代の転換点 ~ドイツの移民政策について~」をテーマにお話を頂いた。
ベンジャミン先生の父親はユーゴスラビア出身で、後にクロアチア人となり、母親は第二次世界大戦中に追放されたため、無国籍のドイツ人だったと言う。ベンジャミン先生ご本人はドイツとクロアチアの国籍を持っている。こうした自己紹介からも、陸続きの欧州は人々の移動の歴史の舞台であり、今なおそれが続いていることが想像できる。以下、レクチャーの内容をまとめる。
1 ことばの定義
「Migration」:国境を越えた移動。経済的機会、教育、家族の再会など。経済的、教育的、個人的と理由はさまざま。
「Immigratio」n:定住を目的とした移住するプロセス。長期滞在、雇用、または家族の再会とビザと許可の取得を含む。国の移民法と政策によって管理。長期の定住と統合の対象になる。
「Refugees」:迫害、戦争、または暴力のために母国から逃れざるを得ない人々。
第一次世界大戦と第二次世界大戦では、大規模な避難、強制移住、そして国外追放が行われ、 第二次世界大戦後には、長期的な平和がもたらされるという希望のもと、数百万人がヨーロッパに再定住した。一方で、第二次世界大戦でドイツは壊滅的な状態になった。
2 戦後ドイツの移民政策
1950-1970年代 「ゲストワーカーシステム」
ドイツには「ゲストワーカーシステム」と呼ばれる外国人労働者制度があった。当時ドイツでは労働力不足への対応を目的として開始し、イタリア、トルコ、ギリシャ、ユーゴスラビアなどの国々との二国間協定を結び、外国人労働者を「いずれ帰国してもらう」という前提で受け入れたが、多くの労働者が最終的に永住した。(姫田注:「ゲストワーカーシステム」は現在、日本や台湾でも導入されておいる制度)
1970年代~1980年代 「亡命政策」
ドイツは亡命希望者の主要な目的地となった。1979年に、亡命手続法(姫田注:日本では同様の法律はなく入管法の一部として規定)により政治的亡命の権利が確立。 1980年代には亡命申請の増加に伴う課題を負うことに。
1980年代~1990年代 「再統一とドイツ系住民」
1989年以降、東欧およびソ連からのドイツ系住民の流入。 「アウスジードラー」(ドイツ系移住者)に対する特別措置を講じた。(姫田注:1985年にEU内の移動の自由を認める「シェンゲン協定」を締結)
2005年 移民法制定
移民管理に関する包括的な改革を行った。統合システムの導入。(姫田注:日本にはまだはっきりとした「統合システム」がない)重点は、非熟練労働者ではなく、熟練労働者(いわゆる高度人材。オーストラリアやNZにも同様の政策あり)の移民に置く。EU市民のドイツでの居住と就労を認める。 特に東欧からのEU域内移民が急増する。
2015~2016年 難民危機
ドイツは、主にシリア、イラク、アフガニスタンからの100万人以上の難民を受け入れた。(姫田注:スウェーデンも同様で、多くのシリア難民を受け入れたEU諸国が今その重い課題を追っている)統合政策と庇護申請手続きに関する政策を実施する。
2020年 熟練労働者移民法
EU域外の熟練労働者の移民を円滑化する。 外国資格の承認を簡素化する。需要の高い分野の労働市場ニーズに対応する。最近の動向として、移民枠と統合に関する議論が継続中。
2022~23年 ウクライナ難民の流入
2022/23年度のウクライナ難民は約50万人だが、2015/2016年度よりも統合プロセスが改善されている。政策の重点は留学生と高度なスキルを持つ専門家の誘致に置く。 世界的な移民動向と労働市場の需要に対応するため政策調整を行っている。
3 ドイツの移民専門機関 連邦移民・難民庁(BAMF:Bundesamt für Migration und Flüchtlinge)
移民・統合に関する専門センター。庇護手続き、難民保護だけでなく全国的な統合促進を推進している。任務には移民研究も含まれる。
4 ドイツのブルーカード制度
高度技能労働者向けのEUブルーカード。資格:エンジニア、IT専門家、医師などの専門職で、4年間の一時滞在許可証を発行する。 ブルーカラー労働者は対象外で、高度技能労働者に重点を置く。 対象国籍は、オーストラリア、カナダ、イスラエル、日本、韓国、ニュージーランド、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国、アメリカ合衆国。
他のEU諸国との政策の比較
① フランス:中央集権的なアプローチ、統合重視。最近の変更点は難民政策の厳格化、経済移民への重点化。
② イタリア:地中海からの移民の玄関口であるイタリアの課題は、到着者数の多さ、EUとの連携問題。
③ スペイン:人道的保護への重点化。最近の変更点は国境管理の強化、アフリカ諸国との協力。
【姫田小夏の感想】
ベンジャミン先生の解説を通し、「ドイツは現在日々施策であり、これだという結論が出ているわけではない。政策は調整を繰り返している」ことを知り、「常によりよくしようという試み」が繰り返されていることを知った。
また「日本とドイツに共通しているのはことばの壁である」とも話されていた。日本語とドイツ語の2つの言語は、ともに習得するにも大変難しい言語と言われていることでも共通する。また、ドイツは「ドイツに住む限りにおいては、ドイツ語を学ぶこと」を前提にしている。言語を通して学べる分野や歴史は深いという点も重視しているようだ。「言語なしでは移民政策は成功しえない」という考えは、日本にも当てはまるのではないか。
日本で特定技能の支援機関に勤務するビジネスパーソンから、「ドイツでは失踪者も多いのか」という質問をもらっていたので、後日その点をベンジャミン先生にうかがった。ドイツでは「ゲストワーカーシステム」が50~70年代のモデルであり、現在、非熟練労働者の確保についてドイツ政府は関与しておらず、自然発生的にドイツに来るブルーカラーについては直接雇用で行っていることがわかった。そのため「失踪者はそもそもない」という。(失踪があったとしても、季節労働者がコロナ禍の移動制限中に職場に戻らなかったという程度)
現在、ドイツ政府が力を入れているのは単純労働者の大量雇用ではなく、高度人材の確保である。ドイツは技術教育や雇用の仕組みがしっかりと構築されているので、単純労働者が極端に不足することはないという。
最後に、ベンジャミン先生は以下のことを強く主張していた。
I) 低技能労働者が搾取の対象、つまり労働奴隷となってはならない。
II) 彼らがその国のために働くなら、その国は彼らに何らかの見返りを与えなければならない。例えば、将来の年金だけでなく、健康保険や失業保険など。
III) 彼らは決して孤独であってはならない。彼らは一定期間(12~24ヶ月以内)が過ぎたら、愛する人を見つけたり、家族やパートナーを連れてきたりできなければならない。そうでなければ、彼らは労働奴隷のままである。
