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スウェーデンの移民政策の転換、 日本にとっての注目ポイントはどこにあるのか

スウェーデンの移民政策の転換、

日本にとっての注目ポイントはどこにあるのか

 

今、スウェーデンで何が起きているのか。20254月に当会でも登壇者の井本正嗣氏が、移民政策の転換を図るスウェーデンの現状について報告してくれたが、本稿ではスウェーデンの政策転換について少し深堀りしてみることにする。

 

スウェーデンの総人口は1037万人、そのうち移民は200万人で移民比率は19.3%(2020年)にのぼる。イスラム圏、アフリカ圏、アジア圏からの移民が約2割を占めるスウェーデンでは犯罪も増加、人口10万人あたりの性犯罪件数では、スウェーデンは南アフリカに次いで突出している。スウェーデンはかつて「理想の福祉国家」と言われ、男女平等、人権尊重、個人尊重をうたった「スウェーデン・バリュー」を築き、また移民の受け入れにも寛容で、1995年にEUに加盟したときは、受け入れに厳しいEUをむしろ批判したとも言われている。そのスウェーデンが一転して移民拒否を打ち出した。

 

スウェーデンの移民の受け入れはシリア内戦でピーク

 

移民の受け入れについては歴史が長いスウェーデンだが、同国の受け入れが著しく増え始めるのは、イランイラク戦争(1980-1988年)、旧ユーゴスラビア紛争(1991-2001年)、シリア内戦(2011年~)などが契機となった。

 

イランイラク戦争-イラクから7000人、イランから2.7万人

旧ユーゴスラビア紛争-ボスニア人10万人、3600人のコソボ・アルバニア人

シリア内戦-アフガニスタン、イラクの難民を含む16万人

 

スウェーデンは国連難民条約に署名しており、条約に基づき難民と認定された人々を審査し、庇護を認めることを誓約しているため、これだけの数の亡命者を受け入れてきた。加えてスウェーデンが2001年にシェンゲン協定に加盟したことで、他の欧州連合(EU)加盟国からもスウェーデンに職を求めて流入している。

 

2015年以降の政策転換、「お金出すから帰ってくれ」

 

一方で2015年以降、スウェーデンの移民政策の大転換を図る。2023年にはスウェーデン政府は新たな移民政策を導入。スウェーデン移民局、スウェーデン警察、スウェーデン税務局が協力して帰国者数を増やせるよう、その権限を強化した。また2024912日、ウルフ・クリステンション政権は、2026年から、「自発的」に出身国または滞在権のある他国への帰還を選択する有資格者に対する助成金を増額すると発表した。成人1人当たり1万クローネ(約14万円)から35万クローネ(490万円)に引き上げられるという。

移民人口が総人口の2割を超えると、国内は秩序の維持が難しくなり、ついには「お金を払うから戻ってくれ」といった究極の手段に出なければ収集がつかなくなる――そんな内情が見て取れる。

 

一方でスウェーデンはすべての外国人を拒否するのではなく、「難民移民の受け入れ国から、労働移民の受け入れ国へと重点を転換する」(スウェーデン政府の公開資料)のだと言う。日本ではこの辺りが正確に伝わらない可能性もあるので、注意が必要だ。

 

また、スウェーデンの移民問題の一部は、イスラム圏からの人口移動がもたらしたものと考えられる。イスラム教と西洋社会の確執は、11世紀の十字軍に遡り、また近代史における西洋の帝国主義によるアフリカの植民地支配はいまだ根深い問題であり続けている。地理的、歴史的背景の違いもあり、スウェーデンの事例をそのまま日本社会に当てはめることは困難であることもわかる。

 

スウェーデンの価値観を守るために

スウェーデン社会における移民と統合ついての政府見解は次のようなものである。

 

「近年の大規模な移民受け入れは、私たちの社会に大きなひずみをもたらしている。統合の問題は現在、ほとんどの政策分野に影響を及ぼしている。このため政府は、統合を成功させるためのより良い条件を整えるため、移民・統合政策を抜本的に見直す。スウェーデンは、誰もが成功するための素晴らしい機会と条件を提供しているが、重要なのは、出身地ではなく、スウェーデンの地域社会の一員になろうとする意志と、何を目指して取り組んでいるかである。スウェーデン語、自立、市民権に伴う権利と義務、そしてスウェーデンの規則、規範、価値観の尊重によって結びついている。スウェーデンに来る人は、スウェーデンの民主的価値観を尊重し、立派に生きなければならない。スウェーデンの開放的で自由な社会を維持するためには、スウェーデン社会の一員となるための期待や条件をより明確かつ厳格にしなければならない。この社会の一員になることを望まない者は、スウェーデンに来るべきではない」

2025130日、About the Government’s prioritisation: Migration and integration

 

「スウェーデン社会の一員になることを望まない者は、スウェーデンに来るべきではない」という文言は、少なくとも筆者には刺さるものだった。日本では永住権の取得要件も近年緩和され、いよいよ「お隣さんは外国人」という時代になった。しかし、多文化共生の進行とともに一方で私たちが築いてきた規則、規範、価値観がこの先形骸化するのではないか、という危惧感を強める時代にもなった。

 

スウェーデンでは今後どのようにして異国から来た人々を社会に統合していくのだろうか。引き続きウォッチをしていきたい。(姫田小夏、2025年5月31日)